変えたのは

色とりどりの花が咲き乱れる聖殿の中庭。
陽光が白い石畳を淡く照らし、花弁が揺れる。
その中を、ジュリアスが女王候補と歩いている。

歩幅を合わせ、ゆっくりとした速度。
ときおり女王候補の言葉に微笑を返し、柔らかな頷きすら見せる。

その様子を、テラスのテーブルで紅茶を飲みながら眺めていた二人。

「……最近のジュリアス様は、本当に穏やかで、喜ばしいことですね」

リュミエールはカップを置き、心底ほっとしたように目を細めた。

「穏やかどころか、眉間のしわ取れてんのよ? また宇宙の終わり一歩手前じゃないの?」

オリヴィエは扇子をぱたぱたさせながら、軽妙な調子で笑った。

「しかも、時々ハッとするくらいキレイで――色気ある顔するのよ。あの煮ても焼いても食えなかった堅物がね?」

「誰が煮ても焼いても食えないって?」

不意に背後から低い声。
振り返ると、オスカーが腕を組んで立っていた。

「オスカー、ちょうどいいところに」

リュミエールは控えめに笑う。

「今、オリヴィエとジュリアス様の話をしていたんですよ」

「最近のジュリアス、色っぽいってねぇ?」

オリヴィエはわざと含みを持たせて言う。

オスカーは眉一つ動かさず、当然のように、

「そりゃそうだろう。今まで気づかないほうがおかしい」

と返した。

紅茶を飲んでいたリュミエールが、危うく咳き込みそうになる。

「……前からそんなこと思ってんの、アンタだけだっての。てかさぁ」

オリヴィエはじとっとした目でオスカーを観察する。

「あのジュリアスをここまで変えるのって相当よ〜? ねぇ、どーいう“テク”使ってんの?」

「……お前な。言い方を考えろ」

オスカーは呆れて、少しだけ眉間に皺を寄せた。

「私もその“テク”とやらには興味がありますね。クラヴィス様には、私が何をして差し上げても……まったくお変わりになりませんので」

リュミエールはわざとらしくため息をついた。

「お前らいい加減にしろよ?」

同期だからこその、いつもの軽口の応酬が続く。

「でもマジメな話、アンタには感謝してんのよ。小言言われることも減ったし〜」

「…それは、もともと全部お前が原因だろうが…」

「クラヴィス様も、『オスカーがもの好きで助かった』と仰ってましたよ。さすがに“もの好き”はジュリアス様に失礼でしょう、と申し上げたのですが…」

オスカーの眉間がさらに深く寄る。

「……俺には失礼じゃないのか?」

「ああ、あなたにもですね」

リュミエールは微笑んだまま涼しい顔で言う。

「…絶対、思ってないだろう…」

横ではオリヴィエがクスッと笑っている。

三人の視線が自然と下に向く。
中庭ではジュリアスが女王候補と立ち止まり、花の香りを説明しているらしい。
指先で白い花弁を示し、ときどきゆっくり微笑む。

その横顔に、ふ、と柔らかな光が差す。

ジュリアスはふとこちらを見上げ、三人に気づくと――
控えめな、しかし驚くほど柔らかな笑みを向けた。

ほんの瞬きほどの一瞬。
だが確かに“温度”があった。

「……リュミちゃん、今の見た?」

「ええ。珍しい表情でしたね」

オリヴィエは扇子で口元を隠しながら、にやりと笑う。

「これじゃあ、誰かがメロメロになっても仕方ないわねぇ? ねぇ、オスカー?」

「……何とでも言え」

オスカーはいつもの余裕で返しながらも、視線は中庭から外さなかった。

二人は気づいていた。
そのまなざしは、彼らが普段目にする“炎の守護聖”のそれとはまったく違う温度を帯びていることに。

「もう隠そうともしてないわねぇ、リュミちゃん」
「はい、ジュリアス様さえお幸せなら何も言うことは…」
「….やかましい」

――ジュリアスが変わったのが先か。

――オスカーが変えたのが先か。

――はたまた、お互いさまなのか。

そんな真面目な話は、今はしない。
ただ紅茶の香りが、ふわりと風に流れていた。