午後の郊外は、夏の匂いを含んだ空気に包まれていた。
雲行きが怪しいと感じたのは遅く、次の瞬間には、逃げ場のない雨が落ちてくる。
「……ついていないな」
狭い軒下に身を寄せたジュリアスが、わずかに眉を寄せる。
不機嫌というほどではないが、機嫌が良いとも言い難い――その中間。
「予報では降らないはずでしたが」
隣で同じく雨宿りするオスカーは、どこか楽しげですらある。
「予報は、当てにならんな」
「ええ。特に、気まぐれなものほど」
そう言って、さりげなく視線を滑らせる。
雨に濡れた白いシャツは、薄手ゆえに身体の線を隠しきれていない。
「……そんなに見るな」
「申し訳ありません。ですが、あなたが濡れた姿があまりにも….」
「くだらん」
即答。
オスカーは気にも留めない。
雨脚が強まる。
会話の隙間を埋めるように、音だけが入り込んでくる。
「しかし困りましたね。
この降りでは、話もままならない」
距離を少し詰めるオスカー。
お互いの濡れたシャツ越しに体温が伝わる。
「….近いな」
「あなたの声が聞きづらいので」
「ならばしばらく黙っていよう」
「えっ? 何ですって?」
さらに一歩距離を詰めて、顔を寄せる。
呼吸がかかる距離。
「……わざとらしいぞ」
「雨のせいです」
「相変わらず都合のいい」
「お褒めいただき光栄です」
「もはやここまで来ると才能だな」
「あなたが魅力的過ぎるのが悪い」
「今度は私のせいにするつもりか」
「それ以外に理由でも?」
雨音が、軒下の板を叩いて一定のリズムを刻んでいる。
湿った空気がまとわりつき、二人の間に逃げ場のない熱を溜め込んでいく。
オスカーの腕はすでにジュリアスの腰に回っていた。
強く抱くわけでもない。ただ、離れないと明確に伝える位置。
「……で?」
至近距離で、ジュリアスが低く促す。
呼吸がかかり、言葉の端が微かに震える。
「なぜ、こうなっている」
オスカーは一瞬だけ視線を伏せ、律儀に数えるように答える。
「それは….雨に降られて」
「それで?」
「誰もいなくて」
「それから?」
「あなたが、ひどく無防備で」
そう言いながら、空いている手がそっと上がる。
濡れた髪を避けるように指先が触れ、耳朶を優しく軽く挟む。
「……色気があるから、ですね。後は…」
「まだあるのか」
「あなたの体温が心地いい」
腰に回された腕が、はっきりと引き寄せ、
唇が、もう触れてしまいそうな距離で止まる。
「…..」
しばらくの沈黙。
雨音だけが、やけに大きい。
「…オスカー」
名を呼ぶ声は低く、含みがあった。
「はい」
ジュリアスはゆっくりと睫毛を伏せて瞬いた。
「それで。いつまで待たせる気だ」
オスカーは微笑む。
「….失礼しました」
次の瞬間、雨音が急に遠くなって。
ただ二人を包み込むように、降り続いていた。