その花束、キケンにつき -part 3

「さっき、一瞬ディアの顔が曇ったのはそういうことか」

ゼフェルが呻いた。

「やっぱり、ディア様は気づいていらっしゃったんだね」

マルセルはもう一回ため息をついた。

「ディア様、花言葉にお詳しいって。たったさっきジュリアス様が教えてくれたよ」

「しかもさ、あんなに巨大な花束にしちゃったから、まさか『大年増』って意味にとられちゃったとかはない?」

ランディのフリーダムな発言に、ゼフェルは眉をひそめた。

「バカ! 誰もそんなこと思ってもねーし言ってもいねーだろうが!」

「ホントにキレイなお花だし、もちろん、僕たちに悪気がないことは、ディア様は十分ご承知だとは思うけど・・・」

「うん、俺なんかそもそも花言葉なんて一つも知らなかったくらいだし・・・」

「でも、せっかくのお誕生日にケチがついたみたいで、このままだとなんとなくモヤモヤするような・・・」

こういうとき、意外と常識人ぶりを発揮するのはいつもゼフェルだった。

「まー、アレだな。ディアが気にしてねーとしてもよ。ちょっとはフォローしといたほうがいいかもな。よくわかんねーけど、誕生日って、やっぱり女には特別な日なんだろ」

=*=*=*=*=*=

翌日の午後、年少組トリオは連れ立って、またも女王補佐官の執務室へ出向いていた。

「まあ三人とも。昨日は本当にありがとう。今日はどうかしたのですか?」

ディアは、いつもと変わらない笑顔で三人を室内へ招き入れた。部屋には、小分けの花瓶に活けられたビバーナム・スノーボールが、壁いっぱいに飾られていた。

「あなた方にいただいた花束が大きすぎて持って帰れなかったので、執務室に飾ることにしました。どうです、お花の滝みたいで素敵でしょう?」

ディアは嬉しそうに周りを見渡した。

「あのー、ディア様。昨日は突然失礼しちゃったので、お詫びにお菓子を持ってきました。よろしかったらご一緒にいかがですか?」

「あら、気にすることなんて何もなかったのに。でも、あなた方が来てくださるのはいつでも大歓迎ですよ」

マルセルは、手に持っていた小さな籠をディアに差し出した。バスケットの中には、クッキーらしき何かが盛られている。

「これ、リュミエール様から教わったレシピで、ゼフェルが作ってくれたオニオンチーズクッキーです」

「まあ、ゼフェルが?!」

ゼフェルは真っ赤になって抗議した。

「違っ! 俺が菓子なんか作るわけねーだろ! ただ今絶賛開発中の、マルチパーパス焼きモノマシンを試運転してやっただけだっ!」

「俺が味見しました。カタチはイマイチですが、味は保証します」

親指を立て、グッジョブサインをするランディ。

「うるせーな、食い物の成形機能はまだ調整中だって言ってるだろ」

賑やかなランディとゼフェルのやり取りに、ディアとマルセルは声を立てて笑った。

「ふふふ、ありがとうゼフェル。では、みんなでいただきましょう。早速お茶を入れますね」

「あ、ディア様。お茶は僕が入れてきますから、先に座っててくださいね」

マルセルは奥の小さなキッチンへ行き、ポットと四人分の茶器を持って戻ってきた。ハーブティー用の透明なグラスポットから、優しい香りが立ち上る。

「あら、これはカモミールですか」

ディアは、ポットの中の小さな白い花に微笑んだ。

「はい。僕の館のハーブガーデンで、朝採ってきたものです」

「いい香りですね。執務の疲れが癒されます」

「ディア様、試作品の味見もお願いしますね」

「こら。試作品言うな」

「じゃなんて言えばいいんだよ?」

「プロトタイプ?」

「同じじゃないか!!」

「あら、これはかなり美味しいですよゼフェル。次回のお茶会で守護聖の皆にお披露目しては?」

「絶対にお断りだぜ」

和気藹々とした楽しいティータイム。歓談の最中、ディアはマルセルにそっと小声で囁いた。

「代々、緑の守護聖は、花言葉のエキスパートでもあります。あなたは、頼もしくも立派に、その役目を引き継いでいるのですね。細やかなお心遣い、本当にありがとう」

そんな、とんでもないですと答えながら、マルセルは、緑の守護聖の後継として認められていることを誇らしく思って、照れたように笑顔で熱いカモミールのお茶を啜った。

カモミールの花言葉:ごめんなさい、親交(これからもよろしく)

カモミール

** fin **