Happy Birthday Julious 2021

From Pixabay

静かな夜。
私邸のダイニングには、控え目な灯りと二つのグラスが用意されていた。

「ジュリアス様、お誕生日おめでとうございます。今年はお祝いにこちらのワインをご用意しました」

差し出されたボトルを受け取り、ジュリアスはラベルを一瞥する。

「ありがとうオスカー。見たところ、かなりのヴィンテージもののようだが」

「はい、俺の故郷、草原の惑星で最も古いワイナリーの地下セラーに長年保管されていたものとのこと」

「ほう、そなたと同郷というわけか」

どこか柔らかな声でそういうと、ジュリアスは椅子に身を被けた。
オスカーは静かにうなずき、デキャンタからワインを注ぐ。

深い色合い。
わずかに揺らすだけで、香りが立ち上る。

「ところでーー」

グラスを差し出しながら、オスカーがふと口元を緩めた。

「恋人と楽しむワインには、ちょっとした”お作法”があるのですが…ご興味はありますか?」

「それは興味深いな。そなたの故郷の習慣か」

「お付き合いいただけます?」

「もちろんだ」

その返事を待っていたかのように、オスカーは一歩距離を詰める。

「では…失礼して」

そう言って、グラスのワインを口に含んだ。

次の瞬間、オスカーは迷いなく身をかがめ、ジュリアスに口づける。

驚きに目を見開く暇もなく、温度を帯びた一口が移される。

香りが、舌の上でほどけた。

「…オスカー」

ようやく距離が開くと、ジュリアスは低く言った。

「口づけして良いとは、言っていなかったはずだが」

「お作法にお付き合いいただける、とおっしゃいましたので」

悪びれもせず、オスカーは穏やかに微笑む。

「いかがです?」

ジュリアスは一瞬、言葉を失ったままワインの余韻を確かめる。

「ああ…まろやかで、実に香りが立つ。素晴らしいワインだが… 」

「気に入っていただけたようで何よりです」

オスカーはグラスを置き、声を少し落とした。

「人肌に温もったひと口。
一番香りが開く瞬間をふたりで分かち合うーーなかなかロマンティックだとは思いませんか?」

「…そなたの故郷では」

ジュリアスは探るように視線を向ける。

「恋人たちは、普段からこのようにワインを楽しんでいるのか?」

「いえ」

即答だった。

「俺が、やってみたかっただけです」

「……習慣ではなかったのか?」

「たった今、俺が作った”お作法”ですが」

オスカーは、薔薇のように整った笑みを浮かべる。

「ーーいけませんでしたか?」

しばし、沈黙。

やがて、ジュリアスは静かに息を吐き、苦笑めいた表情を見せた。

「…誕生日だというのに、ずいぶん大胆な贈り物だな」

「お気に召しませんでした?」

「いや」

ジュリアスはグラスを取り、ゆっくりと一口含む。

「ーー続きがないのが、不自然だと思っただけだ」

そう言って、今度は自分から距離を詰める。

「せっかくの”作法”だ。
最後まで責任を持ってもらおう」

ワインの香りが、再び二人の間で混じり合った。