花は愛でてこそ

聖殿や研究院の女性職員たちに、女王候補たちを交えた女王補佐官主催のお茶会は、噂に違わぬ盛況だったと聞く。

皆が萎縮しないようにと、ジュリアスとクラヴィスは最初から不参加を決めていた。
その代わり、他の守護聖や教官、協力者たちはほぼ顔を揃え、あのセイランまでもが短時間ながら姿を見せたという。
参加した者たちが口々に「忘れがたい一日だった」と語るのも、無理はない。

――その数日後。

オスカーの執務室は、いつもより少しだけ様子が違っていた。

机の脇、壁際、応接用の椅子の上。
丁寧にまとめられてはいるものの、明らかに一時置きとわかる色とりどりの包みや箱が、控えめながら確かな存在感を放っている。

「執務室、狭くなったな」

扉を閉めたジュリアスは、室内を一巡見渡し、ほんのわずかに足を止めた。

「……これは、全部先日のものか」

低く抑えた声に、驚きはない。ただ、確認するような響きだけが残る。

「ええ。例のお茶会の時ですね」

オスカーは執務机の前に立ったまま、いつも通りの穏やかな調子で答えた。
その視線が、一瞬だけジュリアスの表情を確かめるように動く。

「……」

ジュリアスは言葉を続けず、近くの包みに視線を落としたまま黙っている。

オスカーはそれを促すこともせず、淡々と説明を始めた。

「花束は研究院の方からですね。
こちらは女王候補たち。
焼き菓子は、女王補佐官付きの方々。それから….」

「……全部、覚えているのか」

「当然です。少しずつお礼状を書いていますが――」

言いながら、書類の端を指で整える。

「ようやく半分くらい終わったところですね」

「相変わらずマメで結構なことだ」

感想とも皮肉ともつかない口調。

ジュリアスはようやく顔を上げたが、表情は静かなままだ。

「ええ。女性に失礼のないようにするのは、俺の信条ですから」

きっぱりと、迷いのない言葉。

「……そなたが女性たちに人気がある理由が、よくわかるな」

オスカーは小さく笑った。

「美しい花は、愛でてこそ、さらに美しく咲くというものです」

「なるほど」

短く返しながら、ジュリアスは腕を組む。
その仕草は自然だが、どこか間が一拍遅れている。

「お気に触りましたか?」

ふいに投げられた問いに、ジュリアスは眉をわずかに動かした。

「いいや。そなたは、ずっとそうだなと――」

一瞬、言葉を探す。

「むしろ感心している」

オスカーはその答えを受け止めつつ、すぐには引かない。

「……少しは、妬いてくださったのかと」

冗談めいた口調だが、距離を詰める一歩はごく自然だった。

「そんなわけがないだろう」

ジュリアスは視線を逸らし、机の上の書類に目を落とす。
短く息を吐く音が、静かな執務室に落ちる。

そして、間を置いて。

「――大いに、妬いている」

オスカーは一瞬だけ目を見開き、すぐに柔らかく笑った。

何も言わずに近づき、軽く身をかがめて、ジュリアスの額にそっと口づける。
触れたのは一瞬で、熱を残すほどでもない。

「でしたら」

囁くような声。

「今日は、俺のほうからは花を見ません」

ジュリアスは顔を上げ、オスカーを見据えた。
その視線は鋭いが、どこか遊びを含んでいる。

「……ほう?」

口元に、わずかな笑みが浮かぶ。

「どうだか。そなたのことだ」

腕を組み、ゆっくりと言葉を続ける。

「気づけば、また山が増えているのではないか?」

オスカーは肩をすくめ、困ったように微笑んだ。

「…全く、信用がありませんね…」

「まあ、期待はしないでおくとしよう」

そう言いながらもニヤニヤと愉しげなジュリアス。

オスカーは苦笑しつつ、その頬に再び軽く口付けた。