[デートでガチバトル]「プールバーでデートしたら華麗に叩きのめされました」Part 4
静まり返った深夜のプールバー。
照明の下、オスカーが真剣な眼差しでジュリアスを見据える。
「…お見事でした。しかし、このままでは俺も引き下がれません。最後にもうひと勝負させてください」
ジュリアスはゆっくりとグラスを置き、片眉を上げる。
「構わんが、結果は変わらぬと思うがな?」
オスカーは少しムッとして言い返す。
「では、俺が勝ったら言うことを聞いていただきます」
「望むところだ」
カチリ、とキューを立てる音。
それが、最後の戦いの合図だった。
オスカーは集中力を極限まで高め、まるでテーブル上の全てを計算しているかのようにポジショニングを決めていく。
ジュリアスは表情一つ変えず、芸術的なスピンショットを次々と決める。
球がポケットに沈む音だけが、張り詰めた空気を切る。
点数は完全に拮抗していた。
残りわずかな球。
オスカーの配置は、よりによってクッション際の悪角度。
「うわ、これは…」
「どうした、諦めるとでも?」
「いえ、そんなことなど…」
口では強がりながら、眉間には苦い皺。
オスカーがゆっくりと構えを取り——その瞬間、
「ハクション!」
反動でキューが微妙にズレて、白球は予想外の方向へ。
白球はクッションに跳ね返り、別の球に当たり、さらにクッションを二度蹴って……
まるで導かれるように、最後の球がポケットへ吸い込まれた。
「えっ!? 入った!?」
残っていたバーの客がざわつく。
ジュリアスはわずかに目を細めた。
「…今のは、狙ったのか?」
「…いや、完全に事故ですね…」
苦笑するオスカー。
ジュリアスはしばし沈黙し、ため息をつく。
「……アクシデントも勝負のうち。そなたの勝ちだな。では、望みを聞こう」
オスカーはキューをテーブルに置き、ゆっくりとジュリアスの前に立つ。
「あなたです」
そのまま、ためらいなく抱き寄せ、唇を重ねた。
一瞬、ジュリアスの身体がわずかに強張るが、すぐに腕が回される。
目を合わせると、揺らいだ群青色の眼差しは、もはや冷たい勝負師のそれではなかった。
そして、ひと呼吸おいて笑み。
「見事だ、オスカー。勝ち方だけでなく、奪い方までとはな」
テーブルライトが二人の影を重ね合わせ、台の上のボールが静かに転がり、止まる。
その音が、夜の幕引きの合図となった。