[デートでガチバトル]「プールバーでデートしたら華麗に叩きのめされました」Part 1
静かに騒めくプールバーの奥。
テーブルの上だけを白いスポットが柔らかく照らし、周囲は深い影に沈んでいる。
青いラシャは湖面のように光を反射し、チョークの粉がわずかに舞っていた。
遠くのカウンターでは、静かにグラスが触れ合う音と、低く響くジャズが溶け合い、落ち着いた大人たちの笑い声や囁きが心地よく空気に混じっている。
オスカーがキューを肩に掛け、不敵な笑みを浮かべる。
「今日こそは本気でいかせていただきます」
ジュリアスは手元でキューをゆっくり回しながら、淡々と返す。
「ほう――楽しませてもらおうか」
ブレイクはオスカー。
低く構え、キュー先が白球に触れる瞬間――
カンッ!
ボールが四方に散る。1番ボールが指定ポケットへ滑り込む。
そこから息つく暇もなく、オスカーの怒涛の攻めが続いた。
バンクショットで狙い球を反対のポケットへ沈める。
クッション際に白球を押しつけるセーフティで、ジュリアスに手出しをさせない。
コンビネーションからの連続得点――あっという間に4球目が沈む。
カウンター席の客が小声で囁く。
「……あのフォーム、プロか?」
「あの精度は本物だ…」
ジュリアスは微動だにせず、無表情のまま相手の猛攻を見つめていた。
指先だけが静かにキューを撫で、次の瞬間を待っている。
残る球は3つ。
オスカーがあと1球沈めれば勝ち。
だが、その配置は――まるでジュリアスのために用意されたかのようだった。
ジュリアスがキューを構える瞬間、テーブルの上の空気が一変する。
足運びは音もなく、視線は一点に収束。
まず――クッション3つを経由したリカバリーショット。
白球は緩やかに三辺をなぞり、狙い球をポケット寸前に寄せる。
続いて――ジャンプショット。
白球がふわりと浮き、障害球を越えて一直線に的球へ。
カツン と響き、緑の中に沈んだ。
そして最後。
彼は白球をわずかに外へ振り出し、スピンをかける。
クッションに当たった球は、意図的に角度を変えてポケットへ吸い込まれる。
――バンクとスピンが融合した“消える一撃”。
沈黙。
やがて、オスカーが息を漏らす。
「……鮮やかすぎる」
ジュリアスはキューを立て、涼しい声で言い放った。
「当然だ。そなたもせいぜい精進することだな」
テーブルの上には、もう一つも球が残っていなかった。