[デートでガチバトル]「ラウンジバーでデートしたら華麗に叩きのめされました」Part 3
夜はすっかり更け、ラウンジバーには低いジャズが名残のように流れていた。
客はまばら。グラスを磨くバーテンダーの手元さえ、どこか遠く感じる。
テーブルを挟んで向かい合う二人。
互いに一勝――この一局がすべてを決める。
サイコロが振られる。“3と2”。
白駒が静かに進む。すぐさま黒駒が応じる。
駒の動きは鏡合わせのようで、盤面は均衡を保ち続けていた。
駒がぶつかる音、跳ねる音、そして戻る音。
ブロットは互いに慎重に避け、盤上には張り詰めた緊張だけが漂う。
「…静かですね」
オスカーが低く言う。
「均衡は、最も美しい混沌だ」
ジュリアスの声は揺るぎない。
やがて、盤上に二つの城塞が築かれる。
“5ポイントブロック”と“4ポイントブロック”。
互いに相手の進路を封じ、わずかな隙を探る。
“6と1”、“4と3”、“2と2”――サイコロの目が緊張を削るように転がる。
駒が進み、戻り、また進む。
そのたびに視線が交錯する。
そして、ジュリアスがゾロ目を引いた。“5と5”。
白駒が一気に進軍し、ベアオフの準備に入る。
オスカーの眉がわずかに動く。
「…お見事」
敬意と悔しさが、同じ呼吸に混じった。
“スッ…カツン”
ジュリアスが駒を盤外へ送り出す。
“スッ…カツン”
その動きは、淡々としていながらも迷いがない。
オスカーも追いすがるが、わずかに遅い。
サイコロが追いつかない。
最後のターン――“6と3”。
白駒が盤外に消え、盤上から全ての音が失われる。
短い沈黙。
オスカーが深く息を吐き、静かに口を開く。
「完璧だ」
それは悔しさではなく、称賛の響きだった。
ジュリアスはグラスを傾け、淡々と返す。
「盤上に、無駄な音は一つもなかった」
窓の外には、眠らない街の灯りが広がっている。
盤面は空になり、再び静寂が戻った。
第三戦――沈黙の支配者が、均衡の果てに立っていた。