あなたが甘くねだるまで

長距離星間シャトルのラウンジは、静かな恒星光に満ちていた。
窓の外には淡く流れる星雲。
視察の帰路、広いソファに並んで腰を下ろした途端、
長い旅の疲労が一気に押し寄せる。

オスカーが静かに言った。

「しばらく休まれては如何ですか。到着まではだいぶ時間があります」

「そうだな……」

ジュリアスは視線を落とし、整えた呼吸をひとつ吐く。
それだけで、疲労の残滓がふわりと揺れた。

そのまま姿勢を崩さずにいられるはずだった。
はずだったのだが――

気付けば、肩が自然にオスカーへ落ちていた。

オスカーは驚きもしない。
ただ微かに姿勢を変え、預けられた重みを受け止める。

「……もう少し、寄りかかってくださっても構いませんよ」

その声音には、敬意の奥にわずかな甘さが滲んでいた。

ジュリアスは半ば眠りに沈んだまま、わずかに眉を寄せる。

「寄りかかってなど……いない、と思うが」

オスカーは微笑み、声の温度を柔らかくした。

「では……俺の錯覚、ということにしておきましょう」

「当然だ」

言葉は鋭いのに、重心は明らかにオスカーへ傾いたまま。

しばらくすると、ジュリアスの呼吸が規則正しく落ち着いた。
微かな体温だけが二人の間をゆっくりと満たしていく。

ふいに、ジュリアスがまぶたを上げる。
視界の隅で、オスカーが静かにこちらを見ていた。

「……気付かれましたか」

自分がどれほど預けていたか。その事実が一瞬で胸に落ちる。
頬がかすかに熱を帯びたのを、ジュリアスは止められなかった。

「……寄りかかっていたか、私は」

「ええ。とても、安らいでおられました」

オスカーは誇張なく、ただ正確に伝える。
それがかえって、逃げ道を与えなかった。

ジュリアスはわずかに身体を動かす。
肩に預けた重みが変わり、
今度は明らかに意図的で――ほんの少しだけ近い。

「……オスカー」

「はい」

短い沈黙。
ジュリアスの喉が小さく動く。その細い動きすら、オスカーには痛いほど愛おしい。

「……しばらく、そのままで」

それは命令ではなく、威厳でもなく。

ただ、ほんのわずか解けた心が、
確かめるように求めたひとこと。

オスカーは胸の奥で息を震わせながら、静かに応じた。

「……かしこまりました。このままで」

ジュリアスは何も言わず肩を預け直し、
まぶたを閉じる。
オスカーの体温を確かめるように、ゆっくりと。

ラウンジには、二人を包む恒星光だけが柔らかく揺れ続けていた。