少しだけ、甘い夜

食後の貴腐ワインと、はちみつの少しかけられたブルーチーズのせいか。
その夜の空気は、いつもより少しだけ甘かった。

「今宵は、少しゲームをしませんか」

楽しそうなオスカーの手には、古ぼけた美しい箱。

「勝負だったらいつでも受けて立つぞ?」

ワインを片手に微笑むジュリアス。

「これは、俺が子供のころよく遊んでいたボードゲームのアンティークで…」

オスカーはボードをテーブルの上に広げ、カードを並べる。
ジュリアスはよく磨かれた光るコマたちを興味深く眺め、そのひとつを取り上げた。

「軍艦に帽子…これは馬だな。見事な細工だ」

「ええ、コマは熟練の職人によるシルバー細工。ボードやカードは薄くて透明な石材でカバーされた限定の豪華仕様です」

「素晴らしい。なかなか貴重なもののようだ。ルールを教えてくれ」

オスカーがかいつまんでゲームのルールを説明すると、ジュリアスの瞳が輝いた。
知的好奇心が刺激されているときと――勝負のときの目。

「なるほど、この『土地』を独占すれば良いのだな。面白い」

序盤はオスカーがリードしたが、中盤サイコロの出目が味方したことも手伝い、ゲームはジュリアスに有利に展開。

「さすがはジュリアス様、もうルールを把握されましたね」

「そなたの教え方が的確だからだろう」

オスカーは微笑む。

「俺はこのゲームを父に教わりましたが、早く大人数で遊びたくて。
まだ小さい弟と妹に半ば無理矢理教えたんです」

ジュリアスのオスカーを見つめる視線が優しい。

「そうか。さぞかし白熱したゲームになっただろう」

オスカーは懐かしそうに語る。

「ええ、弟はすぐに俺より上達しましたし、妹は策略家でーー父は子供たち相手に、全く容赦しませんでした」

「――そなたの戦略センスの原点、というわけだな」

「そうかも知れませんね――と、ここで時間ですね。

見たところ――あなたが優勢のようですよ」

ジュリアスは微笑んで、隣に座るオスカーに少しだけ、体重を預けた。

「そうか? ――今はもう少し、このままそなたの話を聞いていたい」

レンガ作りの暖炉で柔らかい炎が揺れ、
パチリ、と薪が爆ぜる乾いた音が響いた。