出かける前のキスが長すぎる

朝の光は、まだ柔らかかった。

寝室には、薄いカーテン越しに淡い金色が満ち、空気は静かで穏やか。
昨夜の名残を残したままのベッドで、二人は同じブランケットに包まれていた。

オスカーは先に目を覚ます。
習慣のように身を起こしかけて、ふとサイドテーブルの時計に視線をやった。

今日は日の曜日。
朝の予定を思い出す。

静かに息を吐き、隣を見る。
ジュリアスはまだ眠りの淵にいて、長い睫毛が影を落としていた。

起こさぬよう、そっと身を寄せる。
その額に、軽く唇を触れさせた。

「……よく眠れましたか」

低く、柔らかな声。

わずかに眉が動き、ジュリアスが目を開ける。
ぼんやりとしたまま、小さく頷いた。

「……ああ」

少し間を置いて。

「出かけるのか」

「ええ」

オスカーは微笑む。
だが、すぐには離れない。

「ですが、その前に——」

言葉の続きは、唇で塞いだ。

最初は軽く、朝の挨拶のように。
けれどジュリアスが応じた瞬間、予想外の深みに引き込まれる。

長い指がオスカーの髪を梳いて、引き寄せた。
まるで逃がさぬと言わんばかりに。

息と熱が混じり、絡み合う。
そのたびにより深く、長くなる。

柔らかい皮膚の奥から香る蜂蜜のような匂いに酔いしれ、
もはや時間の感覚すら曖昧になった頃――
ようやく唇が離れる。

「……」

しばらくの沈黙。

ジュリアスは半ば目を閉じたまま、低く囁いた。

「….出かけないのか?」

オスカーは苦笑する。

「――あなたが引き止めたのですから…」

再び視線を落とし、吐息を含んだ声を落とす。

「…覚悟してくださいね?」

ジュリアスはゆっくりと瞬いて――

満足そうな柔らかい微笑みを浮かべた。


一方その頃、緑の守護聖の館。

朝露の残る庭園は、澄んだ空気に満ちている。
若葉を揺らす風が心地よく、光は生命そのもののように輝いて、ピクニックには絶好の朝だった。

「みんな、おはよう!」

元気な声とともに、ランディが駆けてくる。

「今日もいい朝だな!」

弾むように応じるマルセル。

「おはようランディ!
あれ? オスカー様の剣のお稽古は……?」

「さっき連絡があってさ。ジュリアス様の急なご用事で中止だって」

「そっか、でも来てくれて嬉しいよ!もうすぐ他のみんなも——」

「……日の曜日の朝に、急な用事?」

少し離れた場所で、ゼフェルが腕を組んだまま呟く。
眉がわずかに動く。

「何か緊急事態かな?」

ランディが言った、その直後。

「皆さん、おはようございます〜」

のんびりとした声が、庭に流れた。

ルヴァが、アンジェリークとレイチェルを連れて歩いてくる。
いつも通りの穏やかな足取り、変わらぬ微笑み。

その姿を見た瞬間、ゼフェルの口角がふっと上がった。

「あー……」

視線を逸らし、肩をすくめる。

「こりゃ、心配するだけ野暮だな」

ランディは首を傾げ、マルセルはきょとんとする。

だが庭園には、変わらぬ朝の光と、爽やかな風が流れていた。

——すべては、いつも通り。

この朝の、剣の稽古がなくなった理由を除いて。