指切りの代わりにキス

その日のエスコートは、最初から最後まで完璧だった。

約束の時間ぴったりに寮の前へ現れたオリヴィエは、淡い色合いの小さなブーケを手にしていた。
花の選び方ひとつとっても、主張しすぎず、しかし確かな美意識が感じられる。

「今日のそのコーデ、とても素敵だよ。色味がよく似合ってる」

さらりと褒める声に、ロザリアは思わず頬が熱くなる。
気取らないのに、嘘がない。
その一言だけで、今日一日が特別になる予感がした。

二人は花咲き誇る公園をゆっくり歩いた。
陽光を受けて揺れる花々の間を抜けるたび、オリヴィエは足取りを自然に合わせ、無理のない速度を保つ。
屋外テラスでのランチでは、体に優しい料理を選びつつ、料理や器の由来を楽しそうに語った。

午後は美術館へ足を運び、貴石の展示の前で立ち止まる。

「光の入り方で、こんなにも表情が変わるんだ」

そう言って微笑む横顔は、少し派手めな装いとは裏腹に落ち着いていて、真剣だった。
知識をひけらかすこともなく、ただ“好きなものを共有したい”という温度が伝わってくる。

静かなカフェで一息ついた後、オリヴィエは行きつけだというブティックへ案内してくれた。
そこで選ばれたのは、柔らかな色合いのスカーフ。

「今日の記念に。アンタに似合いそうだと思って」

そう言って、丁寧に首元へ結んでくれる指先は、驚くほど優しい。

(……やっぱり、オリヴィエ様って素敵だわ)

一日を共に過ごすほど、その思いは確信へと変わっていった。

夕暮れが近づき、空気が少しひんやりとしてきた頃。
オリヴィエは名残惜しそうに微笑んだ。

「残念だけど、そろそろ帰らないとね。送って行こう」

胸の奥で、小さなため息が零れる。
もう少しだけ、この時間が続けばいいのに。

「……どうかしたかい?」

見抜かれたことに驚きつつ、ロザリアは小さく息を吸った。

「……もう少しだけ、ご一緒にいてはいけませんか?」

その言葉に、オリヴィエはくすりと笑う。

「ふふふ。ロザリアったら、可愛いことを言ってくれるねェ〜」

そう言いながら、スカーフの結び目を直すように、そっと首元に触れる。

「名残惜しいけど、今日はここまで。次がもっと楽しみになるから」

その言葉に、胸がぱっと明るくなる。

「……また、誘っていただけるのですか?」

「もちろんだよ」

「本当に?」

「ああ」

「…じゃ、約束を…」

思わず指切りをしようとして、はっとして手を引っ込める。

(……私ったら、何を……)

その様子を、オリヴィエは何も言わず、楽しそうに見つめていた。

やがて、もう一度スカーフに触れたかと思うと――
次の瞬間、頬をごく軽く、唇が掠めた。

驚きに、目を見開くロザリア。

「ほら。約束したよ」

長い睫毛のウインクが添えられる。

「……もう、オリヴィエ様ったら……」

頬の熱が引かないまま、ロザリアは彼の隣を歩き出す。

(今日は顔を洗わないって言ったら、ばあやに叱られるかしら……)

そんなことを考えながら。
胸いっぱいに、甘い余韻を抱えたまま。