週末の午後。
私邸はただ静かだった。
柔らかな陽光が窓から差し込み、カーテンがかすかに揺れている。
本来なら、二人で過ごすには穏やかすぎるほどの時間だ。
――にもかかわらず。
オスカーが視線を向けた先で、ジュリアスは大きな肘掛け椅子に深く身を沈め、難しい顔のまま動かないでいた。
片手は顎に添えられ、視線は虚空を彷徨っている。
コーヒーテーブルには、書き散らされたメモが数枚。
ほとんど冷め切ったカップが一つ。
遠目からでも分かる。
それは昨夜、遅くまで議論に付き合った案件の走り書きだった。
結論は、すでに出ているはずだ。
――ただ。
議論の終わり際、ジュリアスがぽつりと
「一点だけ、気になるが」
と言ったのを、オスカーは思い出していた。
「……ジュリアス様?」
呼びかけに、ようやく視線が上がる。
「……ああ。昨日の件がな。やはり少し、引っかかっていて」
案の定だった。
「そのようですね」
オスカーはそれ以上何も言わず、椅子の肘掛けに腰を掛ける。
距離が一気に近づく。
「……そなたは、どう思う?」
答えを求める声。
オスカーは、言葉の代わりに手を伸ばした。
指先でジュリアスの顎をすくい上げ、そのままゆっくりと唇を重ねる。
短く、穏やかなキス。
「考えすぎですよ」
静かに囁く。
「いつもの……あなたの悪い癖だ」
ジュリアスの長い睫毛が伏せられ、
一度、ゆっくりと息が吐き出された。
張りつめていたものが、ほどけるように。
「……ああ」
小さな笑み。
「そうだな」
オスカーは満足そうに頷く。
「外は良い天気です。どうです? これから少し、早駆けでも」
「悪くない」
ジュリアスはそう答え、椅子から立ち上がった。
その動きに呼応するように、
窓から入り込んだ風がカーテンを揺らし、
テーブルの上のメモをふわりと舞い上げる。
紙は床に落ちて、
ーーそのまま誰にも拾われなかった。