02. 言葉を封じるキス

「ああ、良かった。ご自宅におられたのですね」

土の曜日の昼下がり。
陽光が磨かれた床に淡く反射し、白いカーテンの裾を風が揺らしていた。
気持ちよく晴れた外出日和だったが、私邸で静寂を楽しんでいたジュリアスを訪ねてきたのは、視察で聖地を数日留守にしていたオスカーだった。

「……オスカーか。戻りは今夜と聞いていたが」

「はい、予定が早く終わりましたので」

大きなソファに深々と身体を沈めているジュリアスのもとへ歩み寄ると、オスカーは軽くその髪に口づけた。
淡い光の中で金糸のような髪がきらめく。

「急がずとも休んでいればよいものを」

ジュリアスは読んでいた本を閉じ、穏やかに微笑む。

「あなたにお渡ししたいものがあって」

オスカーは脇に抱えていた薄い箱を差し出す。

「これは?」

箱を開くと、柔らかな白の布が現れた。
光の加減で銀にも真珠にも見える――不思議な艶を持つシャツ。

「視察先の惑星の特産の布地で仕立てられたシャツです。あなたに似合いそうだと思って」

指先で布を撫でると、繊維がわずかに鳴る。
薄くて軽いのに、絹のような腰があり、手のひらを滑る感触が心地よい。

「シンプルですが、デザインがエレガントでしょう。ボタンも当地の貴重な石だとか」

艶のある濃紺のボタンが光を反射し、白地の中で星のように浮かぶ。

「なるほど、なかなか珍しい」

「皺にもなりにくいとのことなので、お部屋でリラックスされる今日のような時にでも。サイズが合うか気になりますが」

「試してみよう」

ジュリアスは静かに立ち上がり、バスルームへ姿を消す。
ほどなくして現れた姿に、オスカーは一瞬、息を呑んだ。

柔らかな布が身体の線に沿って流れ、光を掬いながら滑らかに落ちる。
襟の開きは絶妙で、首筋の白を美しく際立たせていた。

「まるで誂えたようにぴったりだ。着心地も良い」

「良かった。思ったとおり、よくお似合いですね」

「デザインも私好みで気に入った。ありがとう。礼を言う」

オスカーは満足げに微笑み、襟元のステッチを長い指でなぞった。

「喜んでいただけて何よりです……でも」

「でも?」

もう片方の腕がジュリアスの腰を引き寄せる。

「ーーご存知ですか? 男が恋人に服を贈るのは、ただ喜んでもらいたいだけじゃない」

「どういうことだ?」

低い吐息混じりの声が、首筋を震わせるほど近くで囁く。

「……それを脱がせたいからですよ」

ジュリアスの頬が瞬く間に紅に染まる。

「……そなた。さては、謀ったな?」

呆れたような、面白がっているような声。

「さあ。どうでしょう?」

「わざわざ着替えたのだ。そう簡単に脱がされるわけに……」

言葉の続きは、唇で塞がれた。


ーーオマケ(ピロートーク)

「….皺になりにくい、というのは本当だったようだな」

ベッドサイドのイスにかけられたシャツは、ほとんど形を崩すことなく、ランプの淡い光を美しい光沢に変えている。

「まったく。あなたがなかなか脱がせてくれないから…」

「だからそう言っただろう」

「おかげで皺になりにくいことが実証できましたが。ーーこれなら昼間でも気兼ねなくあなたを抱きしめられそうだ」

「…やはり、最初からそのつもりだったな?」

「当然でしょう? どうです、もう一度お召しいただくというのは?」

オスカーが揶揄うように覗き込むと、ジュリアスはわずかに息を吸い、視線をそっと外してからゆっくりと微笑んだ。

「….断る」

茶目っ気を忍ばせた柔らかな声。

「ーーこのままでいい。今はな」

低く囁くと、ジュリアスは潤んだ眼差しでオスカーを見上げ、
ためらいもなく指先を伸ばして、そっと引き寄せた。