オマケ(ピロートーク)

パチ、と。
時折、薪の爆ぜる乾いた音が静かなリビングに響く。
大きな暖炉の前。
柔らかく、長い毛足のラグの上。
肌触りのよい毛布に包まれ、揺らめく炎の光が、壁と天井に淡い影を描いていた。
――「古びた小さな小屋」。
そうジュリアスは言ったが、実際にはどう見てもそれ以上だった。
居心地のよいリビングに、機能的なキッチンとダイニング。
落ち着いた寝室が二つ、書斎、そして地下には立派なセラー。
古いながらも隅々まで手入れが行き届き、静かに時を重ねた品格がある。
これを「小さな小屋」と呼ぶ感覚が、いかにもジュリアスらしい。
そう思うと、オスカーは内心、少し可笑しくなった。
暖炉の炎が、ゆっくりと二人を温めている。
今朝、馬上で感じた「素晴らしくいい予感」。
それは、間違いなく大当たりだった。
遠乗りには申し分ない天気。
一面に広がる花畑、風のように駆け抜けた林。
渓流で夕食の魚を狙い、足を滑らせたジュリアスに一瞬肝を冷やしながらも、膝下までの水に二人で笑ったこと。
地下のセラーで、宝探しのように先代のコレクションを一つ一つ確かめた時間。
――そして、それから。
思い返していると、腕の中で小さな声がした。
「……うーん……」
「起こしてしまいましたか」
「いや……少し、眠っていたようだな」
炎の光に照らされた耳たぶの先が、うっすらと桃色に染まっている。
オスカーがそれを指先でなぞって、静かに息をつくと、ジュリアスが呟くように言う。
「暖炉の炎というのは、よいものだな」
その声は低く、どこか緩んでいる。
「暖かくて……柔らかくて。包み込むように、優しい」
「……柔らかくて優しい炎がお好みですか?」
オスカーは、わずかに声を落とした。
「――熱くて、激しい炎よりも?」
一瞬の沈黙。
それから、小さく息を吐く気配。
「……もちろん」
短く、しかし確かな響き。
「それも嫌いじゃない」
暖炉の火が、ぱちりと音を立てて揺れた。
影が重なり、炎が少しだけ強くなる。
特別な週末の夜は――
まだ、始まったばかりだった。
** fin **