[デートでガチバトル]「ラウンジバーでデートしたら華麗に叩きのめされました」Part 1
高層ビルのラウンジバー。
ガラス越しに夜景が広がり、街の灯が静かに瞬いている。
薄暗い店内では、ジャズのピアノが低く流れ、グラスの氷が時折小さく鳴った。
中央のテーブルに置かれたのは、艶やかなバックギャモン盤。
象牙色と漆黒の駒が整然と並び、木目の美しい盤面に柔らかな影を落としている。
ジュリアスは無言でサイコロを振った。
“カラララ…”と乾いた音が響き、6と3が並んだ。
その目を見た瞬間、オスカーはわずかに眉を動かす。
「今夜も無口ですね」
挑発めいた笑みを浮かべるオスカーに、ジュリアスは視線を上げず、駒を滑らせる。
白駒が“6ポイント”と“3ポイント”に静かに置かれた。
その瞬間、盤上に目に見えぬ壁が築かれ、空気が変わる。
オスカーの手番。“4と2”。
黒駒が滑るように進むが、1つだけ孤立する。
ブロット。わずかな隙。
ジュリアスの目は“5と1”。
白駒が一直線に孤立駒へ迫り、“カツン”と鋭い音を響かせて打ち落とす。
黒駒が宙を舞い、無情にもバーに送られる。
「…読まれてるか」
オスカーが小さく吐息を漏らす。
ジュリアスは言葉を返さず、ただ駒を進める。
白が連続してポイントを築き、“4ポイントブロック”が完成する。
黒は動きを封じられ、バーから出られない。
オスカーの視線は盤面に釘付けになった。
――これはただのゲームではない。支配だ。
オスカーが振った目は無情にも低く、解放の糸口はない。
再びジュリアスの手番。“3と3”。
ゾロ目。白駒が矢のように進み、一気にベアオフの準備を整える。
駒を持ち上げ、盤外へ滑らせる動作は、静かでありながら異様なほど正確だった。
まるで獲物を仕留める瞬間を知り尽くした狩人の手。
“スッ…カツン”
駒がトレイに収まる心地よい音が、夜の静寂を切り裂く。
オスカーはその動きを見つめ、グラスを傾けた。
「…美しすぎる」
ジュリアスは一瞥だけをくれ、低く告げる。
「勝負は、音を立てずに決まる」
最後の駒が盤外に消えた瞬間、黒はひとつも戻れず取り残されていた。
ジャズが静かに終わり、サイコロが転がる音だけが夜に溶けていく。